つまずいている人の多くは、テクニックが足りないのではなく、タイミングの伝え方と体重の預け方がわかっていないだけだと思っています。
サポートする側として、パドドゥ(男女ペアで踊る)のサポート側に長く立ってきた立場から話します。
これは何年もバレエをやってきた人でも、同じところで引っかかります。
この記事は、すでにパドドゥを始めている人に向けて書きました。
「うまくいかないな」と感じている部分が少し整理されれば十分です。
サポートする側から見ると、こう見えています
前置きだけしておきます。
僕が経験してきたのは、組む側(男性パートナー側)の視点です。
プロとして長く動いてきたこともあって、「女性側から見てどうか」だけでなく、「サポートする側からどう見えるか」については、かなり具体的に話せると思っています。
その前提で読んでもらえると、この記事の内容が伝わりやすいと思います。
つまずき① タイミングを男性に伝えること
これは、何年も舞台に立っている人でも意外と意識できないポイントです。
よく起きるのが、プリエ(膝を曲げる動作)から動き出す動作に入るタイミングが早すぎること。
ピルエット(回転)の準備でも、リフト(持ち上げ)の前でも、後ろに男性がいることは頭でわかっている。
でも自分の動きに集中するうちに、男性がまだ準備できていないのに動き出してしまう。
これは悪いことではなくて、自分の動きに真剣に向き合っている証拠でもあります。
ただ、パドドゥでは「後ろにいる男性と呼吸を合わせる」という意識が、一人で踊るのと同じくらい大切になります。
男性に「今から動く」を伝える方法は、振付の文脈や言葉による確認、視線のやりとりなどさまざまです。
いきなり全部できなくていい。まず「タイミングを共有する必要がある」という意識を持つことが最初の一歩です。
つまずき② 体重の預け方・後ろ重心でいい
これもよく見るつまずきです。前に突っ込んでいく人が多い。
サポートされながら踊る時、重心を後ろに置いていいんです。
前に出ようとすると、男性が支えにくくなります。
後ろに重心を預けることで、サポートが成立する形になる。
「後ろに倒れたら転ぶんじゃないか」という感覚があるのはわかります。
でも、そこで信頼して預けることがパドドゥのひとつの技術です。
一人で踊る時の感覚(前に進む、自分で全部支える)を、パドドゥでも無意識に引きずっているケースがよくあります。
「サポートされながら動く」は、一人で踊るのとは違う身体の使い方が必要です。
リフトの誤解と、約束事
「リフトって力が必要でしょ」と思っている方は多いと思います。
力は、少なからず必要です。
ただ、本来リフトはタイミングで上がるものです。
女性がしっかり飛んで、男性がそのタイミングに合わせて押し上げる。
これが噛み合うと、小さな力でも空中に長くいられます。
力ずくで上げようとすると、むしろ二人のタイミングがずれていきます。
リフトで女性側に守ってほしい約束事を、具体的に書いておきます。
- 飛ぶ時・降りる時に上半身を抜かない:体幹が抜けると、男性は受け止める場所を見失います。上半身を締めたまま飛ぶ、降りる。これが基本です。
- 下を向かない:頭が下に向くと、重心が一気に前に崩れます。視線は前か上に。
- 上半身を前に倒さない:倒れた状態でリフトされると、男性は腰に不自然な力がかかります。
怪我の話:首・肋骨・足首は特に気をつけて
ここは少し真剣に書きます。個人の経験と指導者目線からの話で、医療的な診断ではありません。
気になる症状があれば必ず専門の医療機関を受診してください。
パドドゥで怪我しやすい部位は、僕が見てきた中では首・肋骨・足首です。
首と肋骨は、リフトの時に形が崩れた時に怪我しやすい。
特に肋骨は、男性の手や腕の添え方がずれると折れたり痛めたりすることがあります。
だから男性側は細心の注意を払います。
女性側としては、リフト中に形を保つことが自分を守ることにもなります。
足首は、タイミングがずれた着地や、立ち足の足首が抜ける時に捻挫が起きやすい。
タイミングを合わせることと、着地の準備をきちんとすることが防げる方法のひとつです。
無理しないラインの引き方
パドドゥを始めると、決められたリハーサルの中で本番に向けて仕上げていく必要があります。
焦る気持ちはわかります。でも、怪我した状態で無理して動かすと悪化して、本番に出られなくなる可能性があります。
リハーサルのスケジュール変更や振替は、男性パートナーに相談してみてください。
スケジュール次第で応じられることもあります。痛みがある時は、しっかり休んで治してから再開することを選んでほしい。
パドドゥで一番大事なスキル
テクニックよりも先に大事なものがあります。それは素直に動いてみることです。
「注意を受けた→冷静に考える→試してみる」という動き方ができる人は、本当に伸びるのが早い。
頭で理解してから動こうとすると、どんどん複雑になる。
ただ聞いて終わる、注意は受けるが変えようとしない、という人も見てきました。
バレエ全般に言えることですが、パドドゥでは特にそれが出やすいです。
二人で動くから、片方が固まると相手にも伝わるんですよね。
「とりあえず試してみる」という軽さが、結果的に一番早く感覚をつかむ方法だと思っています。
一人で踊るのと、どう違うか
一人で踊るよりも、最初は全然やりにくいはずです。
後ろに人がいる、腕や足が当たりそう、相手の動きが気になる。
それは当たり前の反応です。
でも、二人の息が合ってくると、一人で踊る時よりも回れるし、空中にいる時間が長くなります。
体の外から支えてもらうことで、本来の自分の動きよりも大きく、長く動ける。
これがパドドゥの面白さです。
一人で踊るVa(ヴァリエーション)の楽しさとは全然違う楽しさがある。
二人で作品の世界観を作っていく感覚、アイコンタクト、マイムや演技のやりとり。
これは一人では経験できません。
怖さや難しさを感じている段階の人に届けたいのは、「慣れたら、かなり気持ちいいですよ」ということです。
もし、躊躇しているなら
最後に少し話させてください。
初めてパドドゥに挑戦する人も、何回も舞台に立ってきた人も、「わからない」をそのままにせずいつでも聞いてほしいと思っています。
どこで詰まっているか、何が怖いか、そこから一緒に整理していけばいい。
Y’s Balletにはいくつかのクラスがあります。
お試しに来てみて、合わなければ来なくていい。
それでも来てくれた間は一生懸命教えます。
楽しくパドドゥを学べる場所を作っていきたいと思っているので、気になっている人はのぞきに来てほしい。
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この記事は樋口祐輝(東京バレエ団ソリスト・Y’s Ballet主宰)個人の経験と指導者としての視点に基づいています。身体の痛みや怪我については、必ず医療機関にご相談ください。


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