「レッスンには真面目に通っているのに、なんとなく伸びない」。
大人からバレエを始めた生徒さんから、この相談を受けることがあります。
先に結論を書きます。伸び悩みの原因の多くは、レッスンの中ではなく、外にあります。もっと言うと、レッスンだけでは鍛えにくい「土台」——股関節・体幹・足部——が意識されていないケースがほとんどです。
僕は東京バレエ団で踊りながら、Y’s Balletという大人向けのバレエクラスを東京で開いています。
2026年4月には左足首の靭帯を痛めて、6週間動けない経験しました。
踊れない期間にトレーニングを積み上げて確信したのは、バレエの上達はレッスン以外の時間で決まる部分が大きい、ということです。
この記事はその総論です。
なぜレッスンだけでは届かないのか、何を足せばいいのかを話せたらいいなと思い書きます。
今後、股関節・体幹・足部それぞれの「やり方」も順番に記事にしていく予定なので、今日は全体地図だと思って読んでください。
レッスンは「表現の場」で、土台を作る場ではない
バレエのレッスンは、バーからセンターへ、音楽に合わせて動きを繋げていく構成になっています。
プリエ、タンデュ、ロン・ド・ジャンプと順番に進んで、最後はグラン・ワルツ。
ただこれは、身体の使い方を音楽の中で確認していく時間であって、筋力や柔軟性そのものを育てる時間ではありません。
もちろんレッスンで鍛えられる筋力や柔軟性もあります。
誤解のないように言うと、レッスンで育つものもたくさんあります。
音楽性、動きの順番を身体に入れる力、ポジションの正確さ。
これらはレッスンでしか育ちません。
ただ、股関節を開いたまま保つ筋力や、骨盤を支える体幹のような「土台」は、レッスンの流れの中では鍛えにくい。
この切り分けが、今日の話の出発点です。
例えばアダジオで脚を高く保つには、股関節の可動域と、骨盤を支える体幹の力が先に必要です。
レッスンはその力の「使い方」を教えてくれますが、力そのものは前提として要求されます。持っていない力は、レッスン中に突然は出てきません。
僕の中での切り分けは、こうです。
レッスンは、音と身体のつながりを鍛える場。
土台作りは、その前提になる「踊れる身体」を鍛えること。
身体や脳に「この筋肉も、この骨も動くんだよ」と伝えるためのトレーニングです。
実際、僕たちプロも、レッスンだけで身体を維持しているわけではありません。
クラスの前後に筋トレ・ストレッチ・ケアの時間を取っています。
毎日踊っているプロですらそうなので、週1〜2回のレッスンで上達を目指す大人にこそ、この「レッスン+α」の考え方が効いてきます。
「なんとなく伸びない」の正体
Y’s Balletで大人の生徒さんを教えていると、伸び悩んでいる人にはいくつか共通する状態があります。
みんな真面目で、個人では頑張ってやっているんです。
でも、脚を上げるときに骨盤ごとずらしてしまう。
タンデュで脚を動かしているときに、上体を保てていない。
インナーマッスルを使えていないというか、使い方を身体がまだ知らない状態なんだと思います。
土台がないまま形だけを追うと、身体は足りない分をどこかで補おうとします。
指導していてよく見かける代償は、この3つです。
サボっているわけではなく、頑張る場所が、本来使いたい筋肉からズレているだけなんです。
厄介なのは、この状態だと注意されても直せないことです。
「膝じゃなくて股関節から開いて」と言われても、股関節の奥の筋肉が働く準備ができていなければ、直しようがありません。
以前、パドドゥの記事でも書きましたが、伸びる人の共通点は「注意されたことを冷静に考えて、やってみる」素直さです。
ただ、その素直さを活かすには、注意を実行できるだけの身体の準備が要ります。
土台作りは、先生の注意を「聞ける身体」を作る作業でもあるんです。
ひとつだけ先にお願いです。
すでに膝や腰、足首に痛みがある方は、トレーニングを増やす前に医師や専門家に相談してください。
ここから先は、痛みのない方向けの一般論として読んでもらえたらと思います。
大人バレエに必要な3つの土台——股関節・体幹・足部
僕が大人の生徒さんに必要だと考えている土台は、この3つです。
- 股関節——ターンアウトの6〜7割を生む
- 体幹——「引き上げて」の正体
- 足部——立つ・押す・降りる、全部を支える
① 股関節——ターンアウトの6〜7割はここから
アンディオール(ターンアウト)の60〜70%は股関節から生まれると言われています。
鍵になるのは、お尻の大きな筋肉のさらに奥にある、6つの小さな筋肉のグループ(深層外旋六筋と呼ばれます)。
脚の骨を外に回す、ターンアウト専門のチームです。
大人の生徒さんを見ていると、「開く」こと以上に「開いたまま保つ」ことでつまずく人が多いです。
5番に入れた瞬間は開いていても、動き出すと閉じてくる。
この保つ力は、レッスン中に「もっと開いて」と言われ続けても育ちにくい部分で、床の上のエクササイズで先に作っておくのが近道です。
② 体幹——「引き上げて」の正体
「引き上げて」という注意の中身を僕なりに言うと、脚を動かしても骨盤と背骨がブレない力のことです。
パドドゥの記事でも触れた通り、踊る上で大事なのは柔軟性とコアの安定。
この2つはセットで、どちらかだけでは踊りになりません。
もうひとつ、意外と知られていないのが胸骨——胸の真ん中の骨——まわりの動きです。
ここが動くようになると、ポール・ド・ブラや上半身の表現に幅が出ます。
カチカチに固める体幹ではなく、支えながら動ける体幹が目標です。
③ 足部——立つ・押す・降りる、全部を支える
足首には2つの仕事があります。
ルルヴェで床を押す仕事と、片脚で立ったときやジャンプから降りたときに崩れない仕事。
そしてターンアウトの残り2〜3割は膝から下の関節が担っているので、足元が崩れると、股関節でせっかく作ったものが漏れていきます。
足裏の3点(かかと・親指の付け根・小指の付け根)で床を捉えること。
そして、お尻と足首を一緒に働かせること。
この2つはアンディオールにもジャンプにも直結します。
怪我を経て確信したこと——134種類のトレーニングが教えてくれたもの
2026年4月22日、僕は左足首の靭帯を痛めました。
最短6週間は動けないと言われ、ダンサーとして踊れない時間は正直きつかったです。
ただ、この期間に「今の身体でできるトレーニング」を毎日積み上げました。
その数は現在、134種類になっています(2026年7月時点)。
経過は連載「足首靭帯損傷」に全部書いているので、興味のある方はそちらを。
復帰の過程で分かったのは、怪我から戻るためのトレーニングと、バレエがうまくなるためのトレーニングは、ほぼ同じものだということでした。
もちろんトレーニングをしたからといって上手くなるかは個人差が出る部分でもあります。
努力した者がすべて成功するとは限らないが、成功する者は皆すべからく努力している。
足裏、お尻、体幹。僕が復帰のためにやったことは、大人の生徒さんに「やってみて」と勧めてきた土台作りそのものでした。
プロが怪我から戻る道と、大人がバレエで伸びる道は、同じ場所から始まっていたわけです。
念のため書いておくと、ここは個人の体験談です。
リハビリは主治医と相談しながら進めたもので、同じことをすれば誰でも同じ経過をたどるわけではありません。
怪我をしている方は、必ず医師の指示を優先してください。
Y’sトレーニングクラスでやっていること
この考えを形にしたのが、2026年5月に開講したY’s Balletのトレーニングクラスです。
踊る前の1時間を、その日のテーマに沿って床から土台を作る時間にしています。
ターンアウトは足先で作るものではなく、股関節の奥から開くもの。
そして実は「開く」ことより、動いている間「開いたまま保つ」ことでつまずく人が多いんです。
だからまず床の上で、骨盤を固定したまま股関節の奥だけで脚を開く練習と、開きを保ったまま脚を締める練習を重ねて、最後に立った状態の1番ポジションに繋げます。
合言葉は「骨格が許す範囲のターンアウトが、今日の正解」。
角度を競う練習ではなく、正しい場所で頑張る練習です。
受けてくださった方からは、「バランスが取りやすくなった」「踊りやすくなった」という声をもらっています。
甲出し(足の甲から先のラインを伸ばしやすくするケア)をさせてもらった方の中には、つま先がもう一段伸びるようになった方もいます。
Y’s Balletを立ち上げた理由の記事にも書きましたが、僕が作りたいのは、大人が安心して上達していける場所です。
トレーニングと聞くと「きつそう」と身構えるかもしれませんが、やることは地味です。
床の上で、狙った筋肉を狙った通りに動かす。
それだけで、何年も変わらなかったアラベスクの高さやターンアウトが動き出すことがあります。
「頑張っているのに変わらない」と感じている方こそ、頑張る場所を変えてみてください。
Y’s Balletのトレーニングクラスは、初級の方から参加できる内容で毎回組んでいます。
東京近郊の方は、一度のぞきに来てください。
合わなければ来なくていいので、お試しからで大丈夫です。
遠方の方に向けては、オンラインスタジオも準備中です。
いつになるかはまだ未定です。
お試し参加OK・合わなければ来なくて大丈夫です
最後に
最後に、僕がこの記事でいちばん伝えたいことを。
伝えたいのは、土台を作ることの大切さです。
バレエに限らず、基礎になるものを続ける。
地味で大変な作業だけど、続けることに意味がある。
やってすぐに変わるものばかりではありません。
でも、やらないと変わらない。
レッスンは、楽しく踊る場のままでいい。
その楽しさを長く続けるための土台を、レッスンの外で一緒に作っていきましょう。
今日が一番若い日です。挑戦することを怖がらず、やってみてください。
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身体づくりとY’s Balletの話は、こちらも読んでみてください。
この記事は樋口祐輝(東京バレエ団ソリスト・Y’s Ballet主宰)個人の経験と指導者としての視点に基づいています。
トレーニングの内容や身体の変化には個人差があります。
身体の痛みや怪我については、必ず医療機関にご相談ください。

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